関西に暮らす高校3年生のはるのさん(18)と、高校1年生のいとのさん(15)。姉妹は、幼いころから、両親が里親として預かったこどもたちと一緒に暮らしてきました。
「いろいろ我慢しているんでしょう」「知らない子と一緒に暮らすのは嫌じゃない?」。周りからそう言われるたび、二人は小さな違和感を覚えてきたと言います。里親家庭の「実子」という立場から見える日常と本音を、率直に語ってくれました。
「お姉ちゃんになれる」と自慢して回った日
最初に里子が家にやってきたのは2017年。1歳8カ月の女の子でした。当時、はるのさんは小学3年生、いとのさんは小学1年生でした。
いとのさんは、当時のことをよく覚えています。
「末っ子だったから、お姉ちゃんになれることがうれしくて……。『やっと来たか!』という感じでした。先生や友達に自慢して回っていましたね」
まだ里親制度のことを理解していたわけではありません。それでも「妹ができる」という期待は大きかったそうです。
一方、はるのさんは当時の記憶があまりないと言います。ただ、家に来てから夜なかなか眠れない里子のために、両親が毎晩寝かしつけに奮闘していたことは印象に残っています。
「お父さんとお母さんが交代しながら、歌ったり、読み聞かせをしたりしていたのを覚えています。私は早く仲良くなりたい、一緒に遊びたいなと思っていたんでしょうね」
その2年後にやってきたのは、生後6カ月の男の子でした。新しい里子を迎えることを聞いて、二人とも心待ちにしていましたが、いつ来るかは秘密。驚かせようと、両親が「サプライズ」を仕掛けたのです。学校から帰ってリビングにいる赤ちゃんを見た瞬間、いとのさんは嬉しくて泣いてしまったといいます。
友だちと遊んで帰りが遅くなったはるのさんも、「なんで教えてくれなかったの!」と泣いたそうです。「もう、かわいくて仕方なかったです。早くミルクをあげたいと思ったことを覚えています」。二人は里子たちの存在を心から喜び、ごく自然に、一緒に暮らすことを受け入れていきました。
「家族」だけど、血縁とは少し違うつながり
なぜ我が家では里親をしているのか。そう改めて両親に尋ねたり、家族で話し合ったりしたことはありません。ただ、「さまざまな事情で親と暮らせないこどもたちを預かっている」ということは、折に触れて聞き、こどもなりに理解していたと、はるのさんは振り返ります。
「小さい頃から人のお世話をするのが大好きで、将来は保育士さんになると決めていました。最初は、妹や弟の面倒を見るお姉ちゃんでしたが、小学校高学年くらいからは、養育する側の目線で。お母さんを支えたいと思うようになりました」
家族ではあるけれど、血のつながった家族とは少し違う。同じ家で生活する仲間、あるいはチームという感覚が、自分にはしっくりくる。はるのさんはそう話します。
一方、自らを「早熟なタイプ」と分析するいとのさんの心境は、少し複雑だったようです。
小学3、4年生のころから、学校支給のタブレットで里親制度について自分で調べるようになりました。「やはり妹や弟とは違う。血はつながっていない『預かっている子』なんだと、認識が変わっていったように思います」
だからといってネガティブな感情を抱くようになったわけではありませんでした。
互いに遠慮はせず、普通にけんかもしました。腹が立つと、一人で公園に行って頭を冷やすことも多かったと振り返ります。「両親から『実子だから我慢しなさい』と言われたことは一度もありません。里子への不満も、きちんと口に出して伝えられる関係だったのがよかったと思います」
ただ、里子たちがみんな「はあちゃん」(はるのさん)ばかりになつくことには、「ちょっとモヤモヤしました」と、いとのさん。世話をする時間が違うので当然だとは思いつつも、母親に愚痴をこぼしたことがあると笑います。
「大変だね」「偉いね」と言われても、どこか違う
血のつながらない「きょうだい」がいる感覚を周囲に伝えるのは、なかなか難しいことだそうです。里親家庭の実子だとわかると、よくこんな言葉をかけられます。「偉いね」「大変だね」「他人と暮らすのって嫌じゃないの?」
けれど、二人にはどこか的外れな言葉に聞こえます。
「偉いのは親なので……。無条件に褒められるのは、まあ、ラッキーやったかも」と、いとのさんは苦笑いします。「よその家とはちょっと違うのかなとは思いましたが、別に嫌な思いはしていないし、『みんな、わかってないんやな』とは感じていました」
はるのさんも言います。「もちろん、我慢したり、お世話を大変だと感じたりすることはあります。でも、それは、家族が増えたら助け合うというだけ。『実子だから我慢させられている』と思ったことはありません。我が家が特別なのではなく、いろいろな家庭の形がある中の一つだと思ってきました」
いとのさんが周囲の誤解を強く感じたのは、小学6年生の時でした。「里親って、お金もらってやってんのやろ?」と言われ、「全然わかってないやん!」と反発。知られていないなら、自分で正しい情報を調べて自分で伝えようと決めました。
先生に相談して、クラスで発表する時間をもらいました。里親の種類や手当の実態、子育てにかかる費用の比較などをスライドにまとめ、養育費が支給されていても、金銭だけでは語れない大変さや喜びがあることを、自分の言葉で伝えました。
「発表中、私が里子のことを、『妹』と呼んでいることに気づいてくれた子がいたんです。『血がつながっていなくても、家族として大事に思っていることが伝わった』と感想に書いてくれて。自分でも気づいていなかったことを教えてもらいました」
発表後は、里親制度について話題になると、いとのさんに代わってクラスメイトが説明してくれることも増えたそうです。
いつかはお別れする関係の中で
二人の家では、長期の委託だけでなく、短期委託などでもこどもたちを迎えてきました。これまで一緒に過ごしたこどもは、現在いる2人の子を含め、およそ10人にのぼります。
いつかさよならする「きょうだい」たちとの出会いと別れを、二人はどう受け止めてきたのでしょうか。
いとのさんは、「来てくれるのは嬉しいし、帰るとなったら寂しい。でも、嫌だと思ったことはないですね」と、話します。
はるのさんは、生後10カ月でやってきて、半年間一緒に暮らした赤ちゃんのことを、特によく覚えています。「いちばんかわいい時期を一緒に過ごせたって思うくらい、楽しかった。お別れした後も、しばらく思い出しては泣いていましたね」
ただ、すべての出会いが穏やかなものだったわけではありません。
ある里子との生活は、家族全員にとって大きな試練でした。激しいかんしゃくがあり、突然スイッチが入ったように暴れだすと止まらない。その子を育てていこうと4年間家族みんなでがんばりましたが、限界を感じ、委託解除となりました。
「それまで、こどもに対しては『かわいい』という感情しかありませんでした。でも、家族だけではどうすることもできないほど、大きな困難を抱えている子がいると知りました。その子のためにも、自分たち家族のためにも、家族だけでどうにかしようとせずに外に助けを求める必要があることを学んだと思います」
里親家庭で育ったからこそ、見えたもの
はるのさんは来春、短大への進学が決まっています。将来は乳児院で働きたいと考えています。幼いころから保育士を夢見てきた彼女が、さまざまな里子との生活を重ねる中で見つけた目標です。
「里子のことを大事にするのはもちろんですが、もっと里親への支援があればいいのにと思ってきました。今でも、里子の成長の節目にメッセージやプレゼントを贈ってくださる乳児院の先生がいます。里子と里親をつなぐ存在になるには、乳児院が一つの選択肢だと思いました。里親家庭の実子として多様な子と関わってきた経験も、そこで生かせるのではないかと考えています」
いとのさんは、里親制度への理解がもっと広がってほしいと話します。
「世の中で知られているのは養子縁組だと思いますが、養育里親や専門里親についても、もっときちんと知ってほしいです。実子と里子の関係も、家庭によってまったく違ってくるので」
さらに、里親制度を理解した上で実子の気持ちをフラットに聞いてくれる人がいてほしいとも付け加えました。以前、実子に対するヒアリング調査を受けた際、里子への率直な思いを話すと、面接者から「里子は心の傷を抱えているので……」と言われ、「えっ!里子に心の傷があることはもちろんわかった上で、それでも消化できないこの気持ちを、理解してほしかったんだけどな」と思ったと明かします。
「では、実子の立場には誰が寄り添ってくれるのだろうと、思ってしまいました。里子にイラッとした、むかついたといったネガティブな気持ちも吐き出せて、きちんと受け止めてくれる存在が必要だと思います。『わかるよ』って言ってもらえるだけで、気持ちはとても楽になると思います」
里親を考えているご家族へ——実子からのメッセージ
里親になることを考えている家庭へのメッセージをお願いすると、二人そろって「家族の土台」の大切さを挙げてくれました。
はるのさんは言います。「うちの場合、里子が来る前から、家族の仲が良く、言いたいことを互いに言い合えました。お父さんとお母さんは、自分が間違えたときはすぐに認めてくれる。そんな関係がもともとあったから、新しい子が来ても自然に受け入れられたのだと思います」
いとのさんも続けます。「覚えているわけではありませんが、最初の里子を迎えるときは、何度も乳児院に足を運び、一緒に遊んだこともあったそうです。そうした積み重ねがあったから、自然に家族になれたのかもしれません。また、うちは親子であっても、対等な人間同士として支え合うという環境で育ってきたと感じています。だから、里子が来ても違和感がなかったのかも」
両親が実子との時間を意識してつくってくれたことも大きかったと、はるのさんは振り返ります。夜、眠った里子を同居している祖母に任せて、家族だけでドライブに出かけたことや夜景を見ながらポテトを食べ、いろいろなことを話し合った時間を今も懐かしく覚えています。時には、レスパイト・ケアを利用して里子を一時的に預かってもらい、実子とゆっくり過ごす時間も大切にしてくれたそうです。
里親になるからといって何かを変えるのではなく、これまで通り実子と接することが一番大切だと、いとのさんは言います。「里子だけを特別扱いするのではなく、実子にも、『あなたを大切に思っているよ』と言葉にして伝えてほしい。どちらも平等に“特別扱い”してくれたら、こどもは安心して一緒に成長できるのではないでしょうか」
(※記事の内容は公開日2026年10月29日時点の情報)